イソフラボンは本当に女性に効果があるのか?
ここ数か月にわたって、私の興味をひいているのが”エクオール”。お聞きになったことがない名前かもしれませんが、大豆イソフラボン と言えば聞いたことがある方も多いでしょう。この”エクオール”は大豆イソフラボンの代謝産物であり、最近世の中で名前を目にするようになってきたこれから期待の物質です。
大豆などのマメ科植物には、多くのイソフラボン誘導体が含まれていることが知られています。世の中で大豆イソフラボンはエストロゲン様作用を有するとされていますが、これは間違いではなく、エストロゲン様作用以外にも抗菌作用、酸化防止作用、鎮痙作用などがあることがわかっています。
大豆イソフラボンが健康に関与することが注目されるようになったのは1990年ごろ。がんによる死亡者数増加が問題となったアメリカで、NCI(米国立がん研究所)が「デザイナーフーズ・プログラム」という5ヶ年計画のプロジェクトを発足させました。がん予防効果を示唆する報告が得られている約40種類の食品を、効果の高さで3段階で示したものですが、その中で大豆はもっとも重要度の高い食品群に属しています。これをきっかけに、大豆、大豆イソフラボンに関する研究が始まりました。
興味深い疫学的なデータはいくつもあります。
♦ アメリカ人の更年期女性の約半分はホットフラッシュ(顔のほてりなど)の症状を訴えるが、日本人女性には少ない
♦ 日本人の骨粗鬆症による大腿骨骨折率は、アメリカに比べて低い
♦ 日本人女性の乳がんによる死亡率は、アメリカ人女性に比べて低い
日米間のこのような違いには、大豆イソフラボンを豊富に含む食事を摂取する伝統的な食習慣が関与していると考えられています。このことから日本ではとくに、大豆などのマメ科植物の摂取が更年期の女性に有効なのではないか、と考えられてきました。
しかしその後、同じように大豆イソフラボンを摂取しても、エストロゲン様作用による効果を認める群と効果を認めない群にわかれることがわかってきました。ある腸内細菌(乳酸菌ラクトコッカス20-92)の代謝により大豆イソフラボンから”エクオール”が産生された人 のみに、エストロゲン様作用による効果が認められるそうです。
つまり、ある腸内細菌がいる方には大豆イソフラボンの摂取は有効だが、ある腸内細菌がいない方がいくらがんばって大豆イソフラボンを摂取しても、エストロゲン様作用は期待できないということです。
この腸内細菌は日本では2人に1人にしかいません。ということは、日本人の2人に1人は、大豆イソフラボンの恩恵に与れないということ。
大豆イソフラボンを一生懸命摂っても、意味のない方が半分もいるということになります。日本人はまだ多い方で、欧米では3人に1人にしかこの腸内細菌は存在していないそうです。
世の中でこれは正しいと信じられていたことが覆る瞬間というのは、時々あります。私にとっても今回学んだことは、驚きであったと同時に、これからできることはなにかを考えさせられる良いきっかけとなりました。これから私たちにできることについて、さらに学んでいきたいと思っています。
参考:麻生ら 日本女性医学学会雑誌 第20巻第2号、大塚製薬からの情報提供