国家資格を持つ医療関係者がヨガ指導をする際に
私が医者でヨガを指導する立場にいるから かもしれませんが、「国家資格を持つ医療関係者でヨガ指導をしている人/これからヨガを指導する人」に数多く出会います。理学療法士、鍼灸師・あん摩マッサージ師 が一番多いような気がしますが、若手の医師、歯科医師、歯科衛生士、臨床検査技師、臨床放射線技師、もちろん助産師・保健師・看護師、あと際どく国家資格ではありませんが 臨床心理士 など、でしょうか。特に、これからその資格を強みにヨガの世界でがんばっていきたい、と言う人によく出会います。
そんな方へ伝えたいこと2つ
1つ目 どちらも中途半端になるくらいなら、どちらかひとつにしておいたら、という考え方もある。
ダブルライセンス と言わんばかりにヨガの資格も取って、という意気込みをお持ちの方に RYT200 でお会いしたりもするわけですが、まずどちらに軸足を置きたいのかを自分の中で見極めること。そもそも「国家資格を持つ医療関係者」なんてものは10年そこそこで一人前になんてなれないのが一般的です。そう考えたら、「国家資格を持つ医療関係者」としての自分をどこまで高められるか、それは 自分自身への問い しかないと私は思ってます。なぜなら「医療関係の国家資格」さえ持っていれば、まわりはそれなりの目で見て、それなりの対応をしてくれるでしょうから。でも自分の中で、もしくは同業者の中で、一人前かどうかはクリアに分かってしまうもの。そう考えたら、真摯に自分が今、その資格に相応しい研鑽を積んでいるかを確かめた方がいい。
その上でのヨガ指導 となるのが理想だとは思いますが、生き急ぐというのか、本業はどちらですか?と尋ねたくなるというのか、国家資格を持つ仕事もそこそこにヨガに軸足を移そうとする人の多いこと。本当にもったいなすぎる。なにがか、と言えば、その人をその有資格者にするまでに投資された税金が、です。私たちはたくさんの税金を使わせていただいてはじめて今の職種に就き、活動ができているということをもう一度確かめていただけたらと思います。ヨガの世界で有利に動けるためにそれだけの税金を投資していただいたわけではない ということを。
さらにヨガを指導する立場として ヨガが片手間になってしまうのも、それは違うと思う。ヨガを趣味で続けていくのならそれはそれで良いし、片手間であったとしても仕方のないことですが、ヨガを指導する立場に立つ のであれば当然、それなりにヨガを深めていくべきだと思っています。なにも難しいポーズができるべき、と言っているわけではありません。ヨガ指導の時間以外に自分のヨガのための時間を毎日 持ち、自分自身のヨガを磨いていくことが大切だということ。それはすなわち、ヨガを指導するに相応しい人になっていく道にほかならないからです。
2つ目 「国家資格を持つ医療関係者」だからこそ伝える内容を見極めるべき。
これまでの日本のヨガ界を見てみると、理学療法士である中村尚人先生や耳鼻科医師である石井正則先生 といった、ヨガを練習する誰もがその先生の著書を1冊は手にしたことがある くらいの先生が「国家資格を持つ医療関係者でヨガ指導をしている人」の礎を作ってくださいました。その後も、特に解剖学の分野で言えば 鍼灸師の内田かつのり先生や野見山文宏先生 をはじめとして、「国家資格を持つ医療関係者でヨガ指導をしている人」は決して少なくありません。これらの先生方に共通して私が感じることは、「ご自身が背負っている国家資格に対してきちんと責任を果たしておられる」先生だということ。
資格にモノを言わせる、つまり
自分が「理学療法士」だから自分のことを信じてよね
自分が「鍼灸師」だから自分の言うことは正しいでしょ?
自分が「医者」だから間違っていないんだ
なんて人はひとりもいなくて、他の理学療法士から見てもおかしくないこと、他の鍼灸師から見ても納得なこと、他の医者から見てもそれは確かにそうだと思えること、のみを伝えておられる方ばかり。
「国家資格を持つ医療関係者」である時点で、世の中の多くの人は「信じるに値する人」という見方をしてくださるもの。それはもちろん、「国家資格を持つ医療関係者」がきちんと定められた勉学を修め、国家試験に合格し、それなりの経験を積み重ねてきたからこそ、であり、そうでなくてはなりません。でもそれは、私たちの先輩方から私たちの同僚に至るまで永い年月、世の中の多くの人の信頼を裏切ることがないよう身を律し、職務に務めてきたからこそ続いている見方であることも確かです。当然ですが、これから先もこの信頼を失ってしまうことがないように私たちも守っていかなければなりません。
その上で、ヨガを指導していく のであれば、限りなく正しいことを伝えていくべき、ということ。さらに言ってしまえば、「国家資格を持つ医療関係者がヨガを指導する際は、限りなく正しいことだけを伝えていくべきだ」ということです。
なぜならば、世の中の多くの人たちは「国家資格を持つ医療関係者」が言うことを信じるから。
「国家資格を持つ医療関係者」がヨガを伝えたいのなら、「国家資格を持つ医療関係者」が植物療法を伝えたいのなら、「国家資格を持つ医療関係者」がホメオパシーを伝えたいのなら、それがどれだけ信じるに値する方法なのかを確かめ、エビデンスを確かめてから伝えるべき。そうでなければ、私たちの同業者が迷惑しますから。理学療法士がそんなこと言ってた、鍼灸師があんなこと言ってた、歯科衛生士がそんなこと言ってた、看護師がこんなこと言ってた、助産師がそんなこと言ってた、放射線技師がそんなこと教えてた、医者がそんなこと言ってた、みんな一括りにされるわけですから。「国家資格を持つ医療関係者」でヨガを指導する人は 世の中に発信する方法を持つ、人に教える といった他の同業者が持っていない「他人への影響力」を持つわけです。そこを自覚したいもの。
たとえばですが、ヨガを教えたい歯科医師が、歯科衛生士が言う「鼻呼吸よりも口呼吸だと免疫の状態が悪い、だからヨガで鼻呼吸を増やして免疫力を上げる」そこにエビデンスがあるのかを確かめてみたら、ということ。
本当に口呼吸だと免疫の状態は悪いの?
鼻呼吸を増やせば免疫の状態は変わるの?
口から、鼻から、という感染経路だけの問題とは違うの?
私は専門ではありませんからわかりません。でも、歯科医師が言うから、歯科衛生士が言うから、信じちゃうって人はたくさんいるんです。ってより、ほとんどの人が信じてしまうんです。だからこそ、私たちは 伝える内容を見極めるべき なんです。
厳しい と言われるかもしれませんが、当然です。私たちは「国家資格を持つ医療関係者」なのですから。「国家資格を持つ」というだけで、世の中の多くの人から信頼をいただく立場にいるのですから。そんな私たちが、世の中の多くの人からの信頼に応えるのはあたりまえのこと。
これまで、私たちの先輩がそうやって信じるに値するヨガを伝えてきてくださった、その続きは私たちが信じるに値するヨガを伝えていきたいものです。