神様に尋ねたいこと
名古屋にいる友達の旦那さんから連絡がありました。かおりのことで連絡取りたいです。と。普段なら本人から連絡がくるはずのところ、旦那さんからの連絡であり、ちょっと普通ではない感じを受けていました。
友達は名古屋にいたころのgym仲間。gym仲間同士で結婚したかおりは男の子も生まれ、とっても幸せそうでした。
私が東京に来てからもちょこちょこメールで連絡をとっていました。
ちょうど1年前、いきなりのメールでした。
『肺がんが見つかって化学療法をするんだけど、相談にのってくれる?』
青天の霹靂でした。すぐ連絡をとり、話しを聞いてみると、胃の調子が悪いと思って内科で胃カメラをやったら胃がんが見つかった。でも、よくよく結果を聞いたら、転移性の胃がんだった。そこから原発巣を探したら肺がんが見つかった とのこと。つまり、いきなり肺がんのⅣ期の宣告を受けたということになります。
彼女はスポーツウーマンで、スポーツを仕事にもしていた人でしたからタバコは吸いません。家族歴もないとのこと。そんな健康な女性が30代前半の若さで肺がんに罹るんです。信じられませんよね。思い当たるのは、遺伝子異常による肺がんです。
肺がんの中でも非小細胞肺がんというタイプにはEGFR遺伝子という遺伝子に異常があることがあることが知られています。EGFR遺伝子変異があることがはっきりすると、特定の抗がん剤による治療の効果が期待できることがわかっています。
彼女の肺がんは案の定、EGFR遺伝子変異による非小細胞肺がんでした。すぐに入院し、くり返し化学療法をがんばっていました。血液検査のデータをメールしてくれたこともありました。
がんとわかってから1年、頭の中に転移が見つかり、放射線療法のために入院を予定していた矢先、脳内の転移巣から出血し昏睡状態だという連絡でした。積極的な治療はできないそうで、出血が止まれば意識が戻るかも、という一縷の望みにかけるしかないような状況だそうです。
高尾さんはお医者さんだからきっとわかると思うけど。
電話の向こうの友達の旦那は男泣きしていました。
8歳の息子がいて、今日から学校はお休みに入るそうです。しかし、今の状況は伝えていない。今日も連れて来れなかったと。
今、私にできることはなんだろう。なんなんだろう。
お医者だから? なにができる?
なにもできない。声すら届けてあげられない。
大丈夫だと言うことは気休めであることも知っており、それを期待されているわけではないこともわかってる。
そしていつも思うことは、人間の無力さ。
どれだけ川や海や空を制圧できるだけの技術を持ったとしても、この若い女性ひとり救うことができない。いったい彼女がなにをしたの?そう神様に尋ねたい。こんなとき、いつもそう思ってしまいます。
医療に携わっている以上、いつまでも感じ続けるこの敗北感。無力感。
そんな私の気持ちとはまったく関係なく、彼女の頭の中では新生物が活動し続けています。きっとだれがなにをしても、彼女の余命に大きな変化を与えられることはないのだと思います。
それでも。それでも、一日でも長く愛する家族といい時間を過ごせることを祈りたいと思います。