のりちゃんにとってのスポーツクラブ
スポーツクラブの業界では、居抜きと言って設備ごと他の組織に鞍替えすることがよくあります。最近では、ワウディがNASに塗り替えられたり、スポーツプレックスがコナミスポーツに吸収合併されたケースが記憶に新しいかと思います。
私が週に2回通っていたスポーツクラブが、この3月末をもって閉館取り潰しとなりました。これまでの私のスポーツクラブ人生で、鞍替えでのクラブ名変更は何度も経験してきましたが、通っていたスポーツクラブがなくなってしまうという出来事は今回が初めてです。
ルネサンス千歳船橋。建物自体はまだまだ使えそうに見えるにも関わらず老朽化のために取り壊し、更地になるそうです。
このクラブは、完全地元密着型のスポーツクラブであり、スポーツを楽しむ人はもちろんのこと、ご近所のお年寄りがお風呂にやってきてコミュニケーションを取る、コミュニティの様な役割りも担っていました。
大きなバスタブもサウナも水風呂もありますので、私もよく利用させていただきました。お風呂場はある意味社会の縮図であり、いろんな出会いがありました。
一番心に残っているのは、膝の悪い、おばあちゃんと呼んでも差し支えない年齢の方『のりちゃん』との出会い。
ロッカールームで初めて会ったのりちゃんは、私の髪型がモヒカンであるためでしょう、私を男性と間違えて声をかけてきました。間違いに気がつくと、それ以降は会うたびに話しかけてくれて、湯船でも世間話を楽しくさせていただきました。宝塚ファンの方には怒られてしまいそうですが『宝塚のお姉さん』と呼んでくださり、地元密着型スポーツクラブの仲間入りをさせてくださいました。
ルネサンス千歳船橋のメンバーは、そのまま隣駅にあるルネサンス経堂に吸収されます。私たちのように、車に乗れたり自転車に乗れたり足が丈夫だったりする者にとって電車の一駅分の距離はそれほどの負担ではないのかもしれません。でも、のりちゃんのように足が悪かったり膝が悪かったり腰が悪かったり、ご近所だから来れていた、顔見知りがたくさんいるからがんばって来れていた方たちにとって、この一駅の負担はかなりのものだと推察します。
ルネサンス千歳船橋最後の日、のりちゃんは私に、もういつ会えなくなるかわからないから、と差し入れにドーナツをくれ、ジュースをごちそうしてくださいました。私はあんたのファンだから、と。いつものように私の腕の筋肉をぺしぺし触りながら。
クラブ自体がなくなってしまうというたいへん残念な機会に遭遇し、また、のりちゃん世代の方と交流を持てたことで地元密着型のスポーツクラブが持つ意義を再確認することができました。
街の整形外科に朝から並んで、医療費を使いながら交流を持っている高齢者の方々を目にすることがあります。本当に必要で整形外科に並んでおられる方も中にはいると思いますが、多くの方はのりちゃんがルネサンス千歳船橋に求めたものを得るために整形外科に並んでいるのではないかと思わざるを得ません。
これから日本でもっともっと増える高齢者がカラダの元気をもらい、顔見知りと会って話して心の元気をもらえる場所として、地域密着型のスポーツクラブの役割りはたいへん大きなものだと私は思っています。
のりちゃん、ありがとう!
私も、のりちゃん世代にできる恩返しの方法を考えていきたいと思っています。