人間ドック結果から思うこと
労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場は産業医を選任する義務があると定められています。私は産業医として、企業の職員の健康を守る任務も担っています。この春に行われた人間ドックの検査結果が届いたため、必要に応じてコメント、精密検査の指示などしています。
結果を見て思うこと。
婦人科の私も、産業医の仕事では男性の検査結果も対象とします。男性では特に、40歳を超えるとぐっと検査で異常を指摘される率が上がるようです。その内訳で多いものはやはり高コレステロール血症や高血圧、心電図異常のための負荷心電図による精密検査の指示。つまり、かつて成人病とよばれた生活習慣病のベースとなる異常がちゃんと指摘されはじめているわけです。
人間ドックの結果は、前回、前々回のものまで記載されます。前回異常を指摘され、指示通りに精密検査なり受診なり、ちゃんとなにかした場合は、今年違う結果となっています。結果がものすごく改善されていなくても、問診で 「すでに受診している」というカテゴリーに分類されるため、結果が「精査もしくは受診が必要」な「D」ではなく、「かかりつけ医の指示に従ってください」の「E」となっているわけです。
逆に放置してある場合は、1年たっても「D」のまま。
人間ドックや健康診断は、企業や会社がほとんどの費用を負担して、社員の健康を守ろうとする取り組みです。これらの検査では、健康であることを確認する という目的以外に、予防できる疾病の早期発見 という目的があります。せっかく異常を指摘してくれたのに、それを1年放置することは、健康を守ろうとする本来の目的を達成できないだけでなく、疾病の早期発見の機会をみすみす逃し、お金を無駄にしてしまっていることにもなります。検査の費用を無駄にしているだけでなく、予防すれば必要とはならなかったかもしれない将来の医療費を無駄にしてしまうわけです。
人間ドックや健康診断で重要なのは、異常を指摘されたあと です。コレステロールが高ければまず食事について学ぶ、食事を変える、それでも改善がみられなければ内服薬のスタート。血圧が高いケースでは、こちらも減塩からはじめます。眼底検査の再検査を指示されて、目だから大丈夫、見えてるから大丈夫、と放置するケースも多いです。眼底の血管は身体の中で唯一、外から直接観察できる血管です。そのため、眼底の状態から全身の状態 つまり糖尿病、高血圧、動脈硬化などをある程度把握することができるわけです。
異常を指摘する意味があるからこそ、異常の結果をお伝えするわけです。糖尿病、高血圧、高脂血症などを放置し、生活習慣病を積み重ねた先には心筋梗塞や脳梗塞などの生命を脅かすような疾病が待っています。そこまでたどり着いてしまう前に、一度時間を作って精密検査をお受けになることをおすすめします。
昨年度の私からのフィードバックで循環器内科を受診し、陳旧性心筋梗塞が発見された45歳男性もいらっしゃいました。結果を受け取ってからが大切です。どうぞ人間ドックや健康診断の結果を活かし、近い未来の健康に役立てていきましょう。