子宮頸がん予防ワクチンのその後
日本産科婦人科学会のポスター発表の中で、もっとも興味を持ったのが、大阪大学を中心としたグループによる 『娘を持つ母親を対象とした子宮頸がん予防ワクチンに関する意識調査』に関する発表でした。
日本では、2013年6月から積極的勧奨が一時中止されているヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン。日本における女性の初交年齢の低年齢化にともない子宮頸がん発症年齢も若年化している現状の中、子宮頸がん検診の対象が「20歳以上」と引き下げられました。外来で見る現実は、もっともっと引き下げてもいいくらいですが… しかしながら、20歳代の検診受診率は11%と極めて低いまま。
そんな中で、HPVワクチンに期待が寄せられたわけですが、HPVワクチン副反応報道および厚生労働省の勧奨中止によって接種率が下がっていることは現場で感じていました。今回の発表では ”やっぱりね” “そりゃそうだよね” そう思えるようなリアルな結果が報告されていました。
大阪府S市における勧奨中止前(2012年度)の中学1年生女子のHPVワクチン初回接種率は65.4%でしたが、勧奨中止後(2013年度)の同学年女性の初回接種率は3.9%と激減しています。2013年6月、HPVワクチン接種勧奨が中止されてから以降の接種者は0。
そりゃそうだよね。という、ある意味納得の結果です。
イーク表参道ではきちんとHPVワクチンの在庫を常に持っております。これは私の意向でもあります。他院でワクチン接種を希望したところ、もうすでに在庫としてワクチンを置いていないので接種できない、と断られた患者さんが表参道を受診されたというケースが2件ほどありました。すでに在庫を置いていない医療機関もあるのだと、ちょっと驚いた記憶があります。
また、同グループによる他の報告では、HPVワクチン接種対象年齢と近い将来に接種対象年齢となる(10~18歳)娘を持つ母親1,000人へのインターネット調査の結果が示されていました。
ワクチン接種中断/未開始群(各200人)が「接種中断or 接種しない」理由について
厚生労働省による勧奨の中止 36.5%
報道により副反応が心配になったから 34%
…
娘が嫌がったから 13%
つまり、接種をしない主な理由は厚生労働省の積極的勧奨一時中止と副反応報道が多数を占め、娘が嫌がったためという理由は少なかったわけです。
また、「ワクチンの効果や起こりうる副反応について医師の説明を十分受けた」と回答した割合は、HPVワクチンの副反応報道・勧奨中止後も接種を継続した群で優位に高かった。ということは、HPVワクチンのリスクとベネフィットについて、まずは親にきちんと伝え、わかってもらうことがHPVワクチン接種率を上げることにつながる、と考えられるわけです。
私たち産婦人科医の任務は、接種するかしないかで迷う親、本人に客観的なデータをお示しし、HPVワクチンを取り巻く情勢を正しく把握していただくこと。その上で、未来に向けて後悔のない選択をしていただくのは個々の判断となります。
現行の2価、4価のHPVワクチン以外に、アメリカではすでに9価のHPVワクチン(9種類のHPVを予防できる)が準備されています。またHPVワクチンの接種率が70~80%と高いオーストラリアでは、既に子宮頸部の前がん病変や尖圭コンジローマの減少が報告されています。残念ながら日本は世界の流れに逆行していると言わざるを得ません。
HPVワクチン接種についてお悩みの方、迷っておられる方がおられましたらぜひ一度ご相談いただくことをおすすめします。