女性総合外来 最終日
本日をもって、東京労災病院での女性総合外来を終了いたしました。
医者としての一番目の勤務先である中部ろうさい病院で女性総合外来の立ち上げに関わらせていただいてから10年あまり。
おなじ『労災病院』での女性総合外来を担当させていただけたこと、『労災ファミリー』の一員としてとてもうれしく思っておりました。
婦人科医師として出会う疾患以外に、不安神経症、不眠症、多汗症、のどのつまり感、慢性関節リウマチの未治療例、外反母趾のひどいもの、さまざまな疾患に出会い、学ばせていただきました。
もちろん、私ひとりで解決できるわけはなく、東京労災病院の各科先生方にたいへんお世話になりました。
女性総合外来を担当していていつも思うことは、病院の敷居は思いのほか高いのだ ということ、どの科に相談したら解決できるのかわからない悩みをお持ちの方がたくさんいるということ、心を打ち明けて話せるトモダチがいないこと。
これまでに、いろいろな悩みをお持ちの方が、女性総合外来を訪れてくださいました。
腕が拘縮し、机から5cmしか挙げられない状態で家業の酒屋さんを手伝い続け、初めて相談してくれた慢性関節リウマチの方。
どうやって靴を履いていたかわからないくらい変形した足を、大事な宝物でも取り出すかのように靴から恥ずかしそうに出して見せてくださった方。
外来中に私の意見を申し上げたら、娘・義理の息子・孫まで電話で呼び出し、みなさんそろって私の話を聞いてくださった一家。
バツ1の彼との結婚を堅い両親に反対され、心のバランスを崩し来院、毎月私と決めた具体的な目標をクリアしていくことでやっと実の両親への引き合わせができた方。
旦那さんががんの末期で東京労災病院に入院中、ストレスと過労でご相談にいらっしゃりまもなく旦那さんは他界された。そのあと、ご本人は来院されなくなったけれどもご友人を何人も 『あの外来、よかったよ~』 ってご紹介くださった方。
お母さんが『認知症』であることを誰にも言えず、ひとりで介護し続け引きこもり、職も失い、うつ状態で来院、お母さんを施設へ入所させ、本人も社会復帰できパートのお仕事を探し中の方。37歳で、今では婚活も始めたようです。
肩こり、腰痛、頭痛、不安など不定愁訴の方に、肩甲骨まわりのマッサージや凝りほぐしの方法を伝えていたら、『こんなふうにヒトにカラダを触ってもらえたのはほんとに久しぶり…』と涙を流された方。
漢方を使ってみても汗の量をまったくどうすることもできず、下着の下にタオルを巻く方法を一緒に考えた方。文字で読むと笑っちゃいそうなことだって、当人には眠れないくらいの問題だったりするわけです。
どの方も、今でも鮮やかにおぼえております。
名前をお聞きすれば、その方の家族構成、お仕事、困ってらっしゃること、キーパーソン、今の状況、これくらいは簡単に思い浮かべられるくらい濃く深く、愛情をもって診せていただきました。
このような外来を担当させていただけたことは、私の婦人科医としての問診や外来にかならず良い影響を与えてくれていると思っています。
『医学』はあくまで学問。
『医療』は「薬」や「手術などの手技」だけではない。私はそう思っています。
まず相手の話を聞くこと、相手の環境を知ること、相手の望んでいることを把握すること、なにができるのかを共に考えること
共に泣くこと 共に喜ぶこと おかしいと思ったことには意見を伝えること
背中をさすること ティッシュを差し出すこと 沈黙の中待つこと
私たち医療に携わる者にできることは、『医学』を提供する以外にたくさんあります。
それを教えていただいたのが女性総合外来です。
たくさんの患者さんの今後を、さまざまなカタチで振り分けるのには心が潰れる思いでした。
婦人科系がメインで、ご本人も希望なさった場合はイーク表参道へ。
精神的症状がメインの方は東京労災病院のメンタルクリニックや近医メンタル科へ。
漢方で調子がよい方は、東京労災病院のかかりつけの科で漢方を継続処方していただくことに。
女性総合外来自体がなくなってしまうため、患者さんにも多大なご迷惑をお掛けすることになり、たいへん心苦しく思っております。
中でも、表参道まで行きたいけれど大田区からは出られそうもないという、杖をつく腰のまがった80台の方とは、私も手に手を取って別れを惜しみました。
思い出は書ききれません。
心気のよいスタッフに囲まれて、本当に幸せな女性外来をやってこられたと感謝しています。
感謝は私からお伝えすべきところ、みんなから大きなお花を頂戴しました。
立ち上げからたいへんお世話になりました楠瀬副院長も来てくださいました。
こんな素敵なメッセージカードも!
私は本当にヒトに恵まれます。
女性総合外来を見つけ、いらしてくださった患者さんのおかげ、カーテンの向こうでいつ終わるともしれないお話を一緒に傾聴してくれたスタッフのおかげ、業務しやすいようにと、私からなにも言わなくても次の週にはさまざまな準備をしておいてくれたみんなのおかげ。
私の医者人生で、またひとつ素敵なご縁がめぐりました。
最後になりましたが、みなさんとの出会いに心から感謝いたしております。
本当にありがとうございました。
高尾美穂